麻薬戦争と暴力性

メキシコについてあまり知識の無かった私は、先日メキシコ人の彼とその家族と交流を持った事を機に、もっとメキシコについての知識も頭に入れておこうと思い、色々調べる事にした。

すると・・・出るわ出るわ。

メキシコの麻薬カルテルによる非道な凶行の数々。

そもそも私が知りたかった事はそういう事ではないのだが、ここ10数年における麻薬戦争の状況があまりに熾烈を極めるため、現在のメキシコは最早ポンチョやアステカ・マヤ文明といった華々しい過去の文化は身を潜め、もっぱらマフィア同士の血なまぐさい騒乱のニュースで溢れかえっていた。

メキシコ政府が腐敗しているという事は、彼の口から度々聞いていた。
新しく大統領となったエンリケ・ペーニャ・エリトという人物も、アメリカと深い関係にあり、国境が直に面しているメキシコの大統領としてはお粗末な程に英語が出来ず、また知能指数も低そうな人物である。

彼の頭の悪さは数々の動画でも検証され、メキシコ市民にも笑われている。
見た目はまるで映画スターの様にイケメンであり、土着の血が混ざっていなそうなので、スペイン征服者たちの純粋な子孫にあたるのかもしれない。つまり、金持ちであり上流階級出身の坊ちゃま育ちである事が想像できる。

麻薬シンジケートが深く政界に入り込んでいる現在のメキシコにしてこの大統領が選ばれた事を見て、最早純粋に、麻薬利権から国が足を切るのは難しそうだ。
メキシコは今後、コロンビアと同じような運命をたどり、麻薬カルテルによって国は没落の一途を辿るだろうと巷ではささやかれている。


しかしこれはメキシコだけの責任ではない。メキシコは南米やコロンビアと言ったラテン国家から、麻薬をアメリカに密輸する拠点となっている背景がある。メキシコから輸出される麻薬の約6割はアメリカ国内で消費されており、残り3〜4割は世界各国に輸出されているはずだ。

マフィアによる残虐な殺戮の犠牲となった可哀想な人々は、間接的にこのような麻薬の消費者によって殺されていると言ってもいい。
その場の快楽と刺激を求め、遊び半分で消費する人々は、生きたまま目をえぐられ、腕や腿を切断され、腹を切り裂かれた人々たちの地獄の様な阿鼻叫喚を目にした時に何を思うのか。
10歳前後の無垢な子供達に、大人達が笑いながら同じ年頃の友達を殺せと命令し、泣き叫びながら友人の腹をめった刺しにする子供達の未来は、一時の快楽におぼれた愚かな大人たちが台無しにしていると言っても過言ではない。


私は歴史を勉強するのが嫌いである。歴史とは理想と国家形成の流れと共に、差別と殺戮、強奪といった人間の強欲さを同時に学ぶ。それが人間の姿であるといえばそれまでだ。まるで猿がほんの少し知恵を付けただけにすぎない。がっかりする。

そして現代ですら、ルワンダ、シリア、アフガニスタン、北朝鮮、ロシア、チベット、コンゴ、ベトナム、メキシコ、挙げればきりが無い程、人間同士による残虐な殺戮が行われ、多くの人々が殺され続けている。

殺されていると書くのは簡単だ。しかし現実はそうではない。
この世界には、アメリカや日本、一部の北欧国といった先進国の多数の人間が、天国の様な毎日を送っているというのに、一方彼らが消費する石油、鉱石、麻薬や、安全が保障された暮らしを送るための武器をめぐり、地獄のまっただ中を生きる人々がその何十倍も存在している。

天国と地獄という2つの次元が同時に存在する。それがこの地球の現実。


人間の心、意思というものが、単なる細胞間の電気信号による複雑な回路による賜物であるとするならば、今殺されている人達も、生かされている人達もすべて、元は地球上に存在する物質から形成された兄弟姉妹である。あなたの細胞はいずれ空と大地に吸収され、水、土となって植物、昆虫、動物に摂取される。そしてそれらを消費して生きているのが私たち人間なのだから、私達の体もまたいずれ誰かの細胞を形成する元素となるのだ。

そこに意思が生まれ、見掛け上個人が区別されるにすぎない。
私はあなた、あなたは私である。
今繰り広げられている虐殺による被害者も、遠い昔に同じ体を細胞として共有していたかもしれない。そう考えると、他人ごととは思えない。

植物、動物、人間、土、水、風、すべてが私達の一部であり、いずれ私達も彼らの一部となる。地球のすべては、親であり、子供でもある。


では、そんな家族の一員である被害者たちを救うにはどうすればよいのか?
こういった方法を思索し、解決する手段を生みだすことこそが、私達が猿とは違う進んだDNAを持つ人間である事を証明する方法の一つである。
猿も家族の一員ではあるが、母親の胎内で植え付けられた人間を形成するDNAを持つ運命にある私達は、産まれた時点で猿とは違うのだ。


過去から現在まで、あまりに多くの残虐な罪を犯してきた人間の醜さを痛感した時、または文章や動画で目にしてしまった時、多くの正常な人は「人間には生きる価値が無い」と思ってしまう事だろう。
そして、映画”フィフスエレメント”の宇宙から来た知能の高いリー・ルーが、戦争や殺戮の映像を多数見てしまった後や、漫画幽☆遊☆白書の仙水忍が黒の章を見た後に人間へ絶望し、人類を守る立場から破滅させようとする立場に変化した事へ、共感するようになるのかもしれない。